拠点長からのメッセージ

令和4年11月7日現在、全世界のCOVID-19感染者は約6億3000万人、死亡者は約660万人と報告され、国際社会はCOVID-19のパンデミックにより未曽有の大打撃を受けております。

2001年に英国のエジンバラ大学のTaylor博士等は、感染性微生物の内の61%、新興感染症の病原体の内75%が人獣共通感染症病原体であると報告しており、動物から人間への感染経路を理解することが重要と考えられます。過去100年間に世界保健機関(WHO)が認定した5回のパンデミックは呼吸器感染症病原体であるインフルエンザウイルス及びコロナウイルスによって引き起こされております。呼吸器感染症は、その伝播経路が、飛沫、空気、接触、経口、環境と他の感染症に比し多彩であり、伝播速度も高いことから、次のパンデミックもインフルエンザ、コロナウイルス感染症等によって引き起こされる可能性が高いことが予想されます。COVID-19の流行から明らかな様に、パンデミックを克服するにはワクチンと治療薬の迅速な開発が必須であり、危機管理の面から、外国頼みではなく、国産ワクチンを速やかに提供できる体制の構築が急務と考えます。

北海道シナジーキャンパス(北海道大学ワクチン研究開発拠点)はヒトに感染症を引き起こす可能性のある病原体のライブラリーを予め整備し、ワクチン開発に資する基礎研究の推進を通じて得られた成果を「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」に導出し、社会に実装する「先回り戦略」を実施することを目指します。

北海道大学は、世界に先駆けて人獣共通感染症に特化した唯一の機関としての「人獣共通感染症国際共同研究所」を設置しており、当該研究所では、全ての亜型を含むインフルエンザAウイルスライブラリーを整備しております。また、COVID-19対策においても、環境、基礎研究、臨床研究に全学で取り組み、多くの成果を挙げて社会に貢献しております。さらに、毎年約150万人の死者を出している結核に関して、国際共同研究ネットワークを構築し、薬剤耐性株蔓延状況の調査結果に基づく、新規診断法を開発し社会実装しております。

以上の背景の下、北海道大学ワクチン研究開発拠点はフラッグシップ拠点と連携し、同一キャンパス内の臨床研究中核病院(北海道大学病院)、医学研究院、薬学研究院、獣医学研究院、遺伝子病制御研究所、人獣共通感染症国際共同研究所等、オール北海道大学による協力体制に加え、デンカ株式会社、塩野義製薬株式会社、株式会社エヌビィー健康研究所の複数の企業と強固に連携すると共に、これまでに構築したメルボルン大学を含む国際研究・教育ネットワークと一体化することで、呼吸器疾患を起こす人獣共通感染症を中心に、疫学研究で単離・検出する北海道大学で保管する人獣共通感染症病原体を活用して、国産ワクチンの開発・生産体制構築に貢献する基礎研究を推進することを目指します。

ワクチン研究開発拠点長
澤 洋文